ジョン爺は耳が遠い。
ジジイになったからではない。
若いころから耳が遠かった。
若かりしころバンド活動によって鼓膜は痛めつけられていた。
20代のころから、耳の遠いおばぁちゃんと一緒にテレビを見るとちょうど良い音量だった。
母や弟からは「音でかい」とよく音量を下げられたものだ。
なぜか、今では他のお年寄りと比べて少しマシなほうである。
あらかじめ鍛えられていたということなのだろうか。
最近では耳が遠いふりをするのがマイブームである
家の音楽の音量はいつも爆音である。
壁の薄い安アパート
音漏れが激しい。
しかし回りは学生なので誰も文句を言ってこない。
それどころかジョン爺家の音楽に耳を傾けている学生がいるとか。
ある日ジョン爺の家の呼び鈴が忙しなく鳴る。
ビンポォン ピンボォォン!
おもむろに立ち上がるジョン爺
相手によっちゃ居留守を使うぜ。まぁ音漏れしてるから居るのは気づかれてるだろうけど
と思ってのぞき穴をのぞくと
あ゙ぁ゙ぁ゙ぁぁぁぁぁぁ!!!
二十歳前後の若者がドアの前で叫んでいる
なかなかパンクでいい声をしている。
面白そうなのでドアを開けようとしたとき
勝手に開けてきやがった
「何スカ!?その曲!!!」
若者は徹夜明けのようなクマと充血の目で睨みながら聞いてきた
そしてジョン爺が答える前に驚いたので
ジョン爺はニタッとして
「こいつジジイやんか!?って思った!?」
と言うと
「う、うっせー!質問を質問で返すなー!疑問文には疑も・・・」
「テポドンズってバンドなんよ♪今流行のポリティカルパンクバンドでさ」
ジョン爺は若者が何か言い終わる前に遮って答えた。
マイペースなだけだが
「そ、それ貸してくれ・・・貸してください!」
「よかよ、まぁ上がっていかんね。ビールとツマミがあるばい」
お昼の2時。
お茶でも飲んでいかない!?という感じでジョン爺は若者を家に上げた
話をしていくうちに仲良くなった
若者の名前は
キヨシ
いや、本名があるのだけどジョン爺は覚えるのがめんどくさいのでそう名づけた
そして酔っ払ってジョン爺はこう言い放った
「キヨシ、バンドしよーぜぇ!?」
「いいっすよ」
即答。
親子以上、孫未満。ほど歳の離れたこの二人
どんなバンドになるのか?
本当にできるのか?
楽しみである
「あ、ジョン爺、俺楽器できねーっす」
「よかよ。お前歌え。」
ジョン爺の家から今日も良質なポリティカルパンクが流れてくる
The ClashのWhite Man In Hammersmith Palais
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