ジョン爺は安アパートで一人暮らし
年金を食いつぶしながら
コンビニでバイトしながら
朝はパンクロックで目を覚まし
夜はUKロックとビールで眠る
酒に浸りながら
そして思い出に浸りながら
一人で暮らしてる
しかしこの日相棒が戻ってきた
先日友達になったキヨシがジョン爺の相棒を治してくれた
愛機チャーリーである
原チャのチャーリーである
本当はシャリーという機種なのだ
つづりが"chary"でシャリーなのだ
HONDA製の。
しかしその昔ジョン爺の先輩がそれをチャーリーと呼んだことから、その日からこの原動機付自転車はチャーリーと呼ばれるようになった
原チャリのチャーリーで原チャーリーだ
当時すでに誰も乗ってないような古いもので
おんぼろでしょーもないやつだったがジョン爺はチャーリーが大好きだった
彼のために曲を書いたりもした
数年壊れたままだった
いつか治そうとしてたのだが治し方が分からなかったし
部品もなかなか合う物がなくなってた
しかしながら今の世の中便利で、ネットでキヨシが探し出してきてくれた
その上「テポドンズ貸してくれたお礼っす」と言い治してあげたのだった
ジョン爺はヘルメットをかぶり、久々にチャーリーに乗って出かけた
チャーリーはギアを変えながら走るタイプだ
車でいうところのマニュアル車である。
クラッチは付いていない。ペダルでガシャガシャとギアを変えられる
坂を上るとき3速ではパワーがないので2速にギアチェンジしなければならない
昔と同じように大きな音を立てて坂を上る
そして坂を上りきったところで休憩した
初夏の草が生えようとする生臭い匂い
そんな生臭すぎて心地よい風の中
チャーリーの思い出が蘇ってきた・・・
以前、学生時代だから半世紀近い昔話になる。
ジョン爺が少し遠くの町までチャリーで旅をしてみたときの話である。
特急で2時間弱で行ける町だが高速道路が使えない、あまりスピードの出ない原付では何時間かかるかも分からないし道は覚えられるわけないし、とにかく無謀な挑戦であるから、その旅に際して誰もが不可能だといった。
「そんなポンコツで行けるわけがない」
「途中で壊れるのが分かってる」
「やめとけ」
その言葉たちがジョン爺を奮い立たせた
そして旅立った
座りっぱなしでケツが痛くて何度もコンビニへ立ち読みしに寄った
チャーリーのエンジンを休ませるためでもあった
寒さのあまり膝の感覚がなくなることもあった
風がひたすら膝に当たりながらの走行だからである。
途中チャーリーをおいて電車で行こうかと思ったこともあった
しかしながら女の子から「がんばって」的なメールが来ると
"美人メールだけランラン"
やる気復活で前へ進んだものであった
実に単純である。
さらに8割ぐらい進んだころ。。。
ガソリンが切れかけた
燃料メータの針がもう"E"(空)のとこまで来ている
しかしなかなかガソリンスタンドが見つからない
もしかしたら進んでいる大通りから1本ぐらい入ればあるかもしれない
ただ道をあまり知らないので迷ったら終わりだと思い、
ひたすらガス欠になる前にスタンドが見つかるのを祈りながら走った
「チクショー前のスタンドで入れておけばよかったぜ、ふぁっく」とか
「まったく知らない町でガス欠はありえんやろ」とか考えながら
寒さもあいまって泣きそうになりながら、
祈りながらずいぶん走った
すると反対車線にガソリンスタンドが!
片側3車線の道路を豪快にUターンしガソリンスタンドへ駆け込んだ
メーターの針はすでに"E"より下にきていた
セルフではなく人がいるスタンド
スタッフが3人で、洗車で忙しそうにしていた
出迎える人はいなかったが、呼ぶとすぐに一人駆け寄ってきた
そのスタッフの女の子は天使だった
ひたすらガス欠におびえながら走ってきたと言うこともあったのだろうけど
そんな状況的のことを除いてもとてつもなく可愛かった
色が白くて目が大きくて・・・
「いらっしゃいませ」
微笑んだその歯並びがいい感じに八重歯で白くて・・・
実にイイ!
さらにツナギという素晴らしい衣装のお陰でもあるかもしれない!
「レギュラー満タンで」
満面の笑顔でオーダー
もうすでに若者ジョン爺の心の中は何か・・・いろいろ満タンである
ヤバスヤバスヤバス
オーダーを受けた女の子は燃料キャップを外そうとする
だがなかなか固くて外れない。
そこであけてあげるのさ!
と妄想している間に、無常にもキャップは簡単に開きガソリンが注がれた
3リットル弱のガソリンが入る間
「なかなかスタンドがなくて~」とわずかに会話
「そうなんですか~」と笑顔で返され
もうジョン爺の心の中は満タンどころではない
うへへ~い
となっているうちに給油キャップは閉められ
レシートを見せられた
「297円です」
ジョン爺の財布の中にちょうど300円あり、300円払った
女の子は300円を受け取るとおつりをとりにスタンド奥の待合室(?)へ
その小走りでおつりを取りにいく後ろ姿をぼんやりと眺めていた
そして笑顔で戻ってきた
おつりの3円を受け取るとった後、ジョン爺は一瞬後悔した
さっき1000円を渡していれば・・・
おつりは703円・・・
わざと落として拾うときに手が
ぴとっ・・・って
あ、無理無理。
そんなプレイボーイみたいなことできねーぜ
「ホント、自分の顔見てみろよ。お疲れいす」
チャーリーのミラーがちょうどジョン爺の顔を映し出していた
これでいいんだ
会話ができただけいいじゃないか。
いいんだよ
どうせもう二度と会うこともないんだ
そしてジョン爺は笑顔で「ありがとう」をいって立ち去った
チャーリーに乗って。。。
今頃あの子はどうしてるだろうか
きっとどこかでおばぁさんやってるんだろう
元気でいてくれたらいいな
今まで何百回とこのチャーリーにガソリンを入れてきたが
あんなに記憶に残っている給油はないな
と
ジョン爺は思いながら
海を眺めながら
チャーリーに乗って家路につくのだった